円の接線の角度が90度であることは、中学数学以降で当たり前のように使っている内容でしょう。しかし、「本当に正しいの?」と質問されるとうまく答えられないかもしれません。成立する理由を知ると、意外と奥が深い内容だと気づくものです。今回は円の接線の角度が90度であることの証明方法を3つご紹介します。
円の接線の角度が90度になることの証明の前に、接線とは何かを定義しておきましょう。接線とは、中学では「円と直線が1点で交わるときの直線のこと」を指します。 高校以降になると、放物線・楕円・双曲線などの接線や微分を使って傾きを表すなど、用途が拡がるのが特徴です。また、円と直線が1点で交わるときの交点を、円と直線の接点と呼びます。直線が他の図形と接したときには基本的に、交点を除いて直線で分かれる領域のどちらかに点が集中しますので、「触れる」と考えておくと理解しやすいでしょう。
まずは、円と2点で交わる直線を考えてみましょう。円の中心をO・円と直線の2つの交点をXおよびYとしました。ここで、直線XYの中点をMだと仮定します。三角形OXMとOYMにおいて、OMは共通・Mは直線XYの中点なのでXM=YM・OX=OY(=円の半径)より、三角形OXMとOYMは三辺が等しいため合同です。つまり対応する角度も等しく、∠OMX=∠OMYが成り立ちます。また、Mは直線XY上の点だと仮定していましたから、∠XMY=180°(= ∠OMX+∠OMY)です。したがって、 ∠OMX=∠OMY=90度だともわかります。
さて、直線XYを、XとYの距離が短くなるように平行に動かしてみましょう。このとき、 三角形OXMとOYM の合同関係や∠OMX=∠OMY=90度に変化はありません。最終的に XとYの距離が最も短くなるのは、XとYが一致する場合です。点XとYは円周上の点でもあることから、 XとYが一致するときに直線XYは円と1点で交わっています。また、X.M.Yは一致しているものの、 先ほどの関係∠OMX=∠OMY=90度に変化はありません。よって、直線が円の接線になったときに、接線は円と90度に交わっています。
以上の内容は、円の接線が90度であることの証明法の一つとしてよく挙げられていますが、私のように「そうは言われても…本当に必ず成り立つの??」と釈然としない方もいらっしゃるかもしれません。イメージでは最終的に90度のまま接点で一致しそうですが、それ以外の可能性がないとは言えませんよね。
そこで今度は、接する場合に必ず90度になることを背理法を使って考えてみましょう。背理法とは、ある状況を想定した場合に条件を満たさない(矛盾が生じる)ことから、相反する内容が正しいと証明する方法です。
まず、接点Pにおける円と直線(接線)が90度ではない角度になっていると仮定しましょう。このとき、円の中心Oから直線に向けて垂線をおろし、その足をQとします。垂線ですから、直線⊥OQつまり90°なのでPとQは別の点です。ここで、Qを中心にしてPと反対の位置になるように直線上でRを取ります。つまりOとQは別の点なのでRも別の位置にあり、QがPRの中点です。
ここで、△OPQと△ORQにおいて、OQは共通・中点よりPQ=RQ・ 直線⊥OQより∠OQP=∠OQR=90°から、 △OPQと△ORQは2辺とその間の角が等しい合同だとわかります。よって、対応するもう一つの辺は等しく、OP=ORです。最初の設定で、Pは接点だとしており、円の中心Oから長さの等しいRもまた円周上にあります。つまり、直線と円は異なる2点で交わることになり、「接線は円と1点のみで交わる」接線の条件を満たしません。したがって、背理法により接点Pにおける円と直線(接線)が90度だと証明できました。
円の接線が90度になることのもう一つの証明方法は、辺の長さと角の大きさの大小関係を利用するものです。三角形で、長い辺の対角は短い辺の対角よりも大きい性質があり、逆も成立します。
円と直線の接点をXとし、接線が垂直ではないと仮定します。円と接線は交点が1つだけなのが条件ですから、Xのほかにはありません。その場合、円の中心Oから接線へ90度になるように垂線を下ろすとその足YとXは別の点です。
ここで、三角形OXYを考えると、∠OYX=90°より∠OXYは90度より小さくなります。したがって、長い辺の対角は短い辺の対角よりも大きい関係性から ∠OYX>∠OXY⇔OX>OYです(直角三角形の斜辺が他の辺より長いことを用いてもよい)。ところで、Yは接線上にあり接点とは異なる点ですから円の外部にあり、OX<OYとなり辻褄が合いません(矛盾)。そのため、仮定が間違っていて、円の接線が垂直すなわち90度だとわかりました。
接弦定理は、円と直線が接するときに、弦のなす角と円周角との関係性を示した定理です。直径を通るときに、円周角が90度になることから接弦定理によって円と接線が直交することが求められるでしょう。
ただし、接弦定理の証明は、円と接線が接点上で90度で交わることを使っています。そのため、接弦定理を使って円の接線が90度であることを証明しようとすると、鶏が先か卵が先かの議論になってしまうのです。 ちなみに、鶏が先か卵が先かとは、「鶏が卵を産む」「卵から鶏が産まれる」の二つの事象に対して、先に始まったのがどちらなのかに疑問を提起しています。
数学では、ある定理を証明する際に使うものは、成り立っていることが前提です。当記事では、円の接線が90度であることから接弦定理を導き出しているため、逆の詳細に関しては割愛しました。接弦定理に関しては次回以降の記事で詳しく触れますので、参考にしていただけますと幸いです。
今回は、円の接線の角度が90度であることの証明を、三つの方法でご紹介しました。接線が円と90度になることを利用して証明できる内容も多くあります。有名なものは、接弦定理・法べきの定理・接線の長さなどです。それぞれ証明に触れているため、併せて参考にしていただければ幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。