選挙で戦略投票という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。戦略的投票とはどのような意味なのかを知って、やり方に加えてデメリットがある場合は把握しておきたいですよね。戦略投票は、小選挙区制などで死票を減らす手段になりうるほか、比例代表制などでも使える可能性があるのが特徴です。今回は、戦略投票がどのようなものかについて、日本での例や注意点などをご紹介します。
◎戦略的投票とは?合理的選択モデルによる投票
戦略投票とは、より望ましい結果になるように、当選ラインぎりぎりの中で考え方が近い候補者あるいは政党に敢えて投票することで、誠実投票の逆です。誠実投票とは、第一希望の候補にそのまま一票を投じることを指します。選挙の投票行動としては基本的に、自身が一番考えが近い候補者や政党(もの)に一票を投じるのが当たり前だと思うかもしれません。しかし、時にはどうにも意に沿わない候補者が当選する/政党が議席を得る(考え方が近い候補者や政党の議席が減ってしまう)ことにもなります。
合理的選択モデルとして、投票で自身が最も望んでいる以外の行動を意図的にすることでより望ましい結果につなげるのが戦略的投票です。戦略投票が日本で起こりやすいのは、複数人が当選する場合で、比例代表制・参議院選挙や議会議員選挙での複数人区が挙げられます。また、1人しか当選しない衆議院選挙の小選挙区でも、考えの近い政党が同じ選挙区で競合しているときに、より有利な候補に票が集まることもあるでしょう。逆に、考えの近い政党同士で選挙協力や一本化をしていると、当選して欲しい候補者かそうでないかの二択の場合もあり、戦略的投票は起こり得ません。
◎選挙での投票行動における3つのモデルの例(日本)
戦略的投票でどのような例が考えられるかが気になるかもしれません。合理的選択モデルにそって投票する先を決めることで、同じ1票でも当落を左右する点で重みが違ってきます。投票行動に関して3つのモデルでとりわけ日本の選挙で起こりうるものをみていきましょう。
●中選挙区制での戦術的投票:複数人区で同じ政党の候補者の票をなるべく均等に
複数人が当選する、参議院の選挙区の一部や都道府県や市区町村の議会議員選挙では、同じ政党や政治団体から何人も立候補している場合があります。最下位当選でもトップでも当選には変わりはないため、それぞれの票をなるべく均等にすると、できるだけ多くの候補者が当選することが期待できるでしょう。
例として、3人当選の選挙区で7人が立候補している場合を考えます。単純にこの数字のままであれば、得票数が多いのはA党のQ→B党のR→C党のO→無所属のPの順番で、A党・B党・C党が1議席ずつです。A党は1議席を確保しているので悪くはなさそうですが、Qに票が集中するあまり、猛追していた同じ党のMが5位に終わってしまうのはもったいないかもしれません。そこで、Qの得票のうち10万票がMに入るとどうなるでしょうか。
今度は、Q→R→M→O→Pの順番に変わり、A党の候補者が2人当選圏内に入りますよね。このように、特に同じ政党の候補者が複数立候補していて片方に票が集中しそうな場合、別の候補者に戦略的に投票することで議席を増やせる可能性が高まります。
●戦略的投票の例:より有利な候補に集中させて、共倒れを防ぐ
戦略投票は、得票数が多そうな候補者から少なそうな候補者への流れとは限りません。より多く得票できると考えられる候補者に集中させる方が良い場合もあります。ここでの例では、このままだとB党の候補者の一方は次点で惜敗、もう一方も当選ラインに届かずに落選になります。
B党の得票数の合計は全体で2番目ですから、全てが死票になるのはあまりにももったいないです。そこで、戦術的投票として、まだ健闘しそうな候補者に集中させるとどうなるでしょうか。
片方の候補者は諦めることになりますが、全滅は避けられました。複数人が当選する選挙区では、同じ政党の候補者同士が争い、結果的に別の政党の候補者が漁夫の利になることも度々起こっています。票の分散による共倒れを防ぐ意味でも、戦略投票は有効です。
●戦略投票が小選挙区制でも起こる例:相互推薦・一本化・野党共闘
戦略投票が小選挙区制で生じる例が、特定の政党同士が協力関係になり、特定の候補者に票を集めて当選を目指すものです。衆議院選挙で1990年代以降に導入されている小選挙区では、連立与党がそれぞれの選挙区で競合しないように事前に予備選挙を実施するなどして候補者を調整し、相互で推薦し合う状況が見られます(うまくいかずに競合した場合は保守分裂などと表現される)。また、最近では、野党でも一部の政党が候補者を絞り込み、票が分散して与党側が利することのないようにする動きも珍しくありません。この動きは野党共闘などと表現されます。
戦略的投票は、仮に政党間の調整がうまくいかずに競合していたとしても有権者が考えて行うことは可能です。この場合、当選が手堅いあるいはどう頑張っても落選濃厚な候補者から、”激戦”/”横一線”の候補者に乗り換えます。たとえば、上記の例でC党とD党の政策が近かったとしましょう。このままでは両党とも候補者が当選しません。そこで、苦しい情勢とされたD党のSに入れる予定だった人の4割がD党を諦めて、接戦であるC党のOに投票先を変えるとどうなるでしょうか。
順番がQ→R→O→M→Pとなり、結果的により考えの近いC党のOを当選させ、政策が明確に異なる政党の候補者の議席も一つ減りますよね。このようにぎりぎりの候補者を押し上げることで、少しでも考えの近い方が当選できるようにすることもできます。戦略投票のこの考え方は比例代表制でも、ドント式の数値で比較し「最後の1枠」など接戦になっている政党に投じることにも効果的でしょう。
◎戦略的投票のデメリットや問題点は?
戦略的投票でのデメリットはどのようなものでしょうか。問題点があまりなさそうな印象を抱くかもしれませんが、状況によっては逆効果になることもあります。戦略投票の注意点としてどのようなことが挙げられるかを見ていきましょう。
●大選挙区制での戦略投票で気を付けたいこと
大選挙区制での戦略投票つまり複数人が当選する場合に注意したいのが、最も応援している候補者が当選圏外に落ちることもある点です。例として、あなたがA党の支持者で特にLさんが推しだったとしましょう。事前情勢が以下の通りで、順番はH→L→E→Fです。そこで、戦略投票を考えて、15万人がLさんからFさんに流れるとどうなるでしょうか。
ギリギリの予想だったFさんは当選しますが、逆にLさんは落選してしまいました。戦略投票を考えている人が多いほど情勢ほどは得票数が伸びないこともあり、本来であれば当選確実だったと思われる候補者が苦杯をなめる事例もあります。政党が異なる場合はもちろんのこと、同じであってもどちらの候補者を応援したいかは変わってくるかもしれません。戦略投票を行う際は、第一希望の候補者の得票数が下がり落選に近づくデメリットもあることを踏まえて慎重に行うのがおすすめです。
実際の選挙では、誰が当選するかは開票するまではわかりません。過去の国政選挙でも、情勢分析で「優勢」「リード」などと報道されても、蓋を開けると逆転されて落選したり、深夜に開票率が98%くらいになって初めて当選確実になったりすることもありました。当選圏内に入っている候補者から接戦の候補者に票を回す場合は、振れ幅がある点も踏まえて判断するようにしましょう。
◎まとめ
今回は、戦略的投票の例や問題点などをご紹介しました。誠実投票とは違い、第一希望の候補者ではなくその次に当選させたい競っている候補者へ投票先を変えることで、より考えの近い候補者を多く当選させられる可能性が高まります。もちろん、選挙の情勢や事前予想とは違った結果になることもありますので、慎重に考えて決めましょう。最後までお読みいただきありがとうございました。
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